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XR技術で農業の課題を改善!意外と知られていない「XR農業」の広がり

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ある日、筆者が朝食の準備していると、衝撃的なニュースが飛び込んできました。

「最終的に消滅する可能性がある都市」が、日本全体の4割に当たる744自治体もあるというのです。しかも、2050年とそう遠くない未来で現実になるかもしれないという・・・。

なぜこのニュースが気になってしょうがないのか。

それは、筆者の生まれ故郷である九州のとある町の名前が、そこに並んでいたからです。

私の祖父も農家を営んでおり、高齢化とともに農家が減ってきている現状を目の当たりにしてきました。

そんな農業の抱える高齢化や農家の減少などの課題解決に向けた新しいアプローチとして、「XR農業」が注目されています。

日本の農業の大きな課題とは?

まず、日本の農業は「人手不足」と「後継者不足」という二つの大きな問題を抱えています。

農林水産省が実施した「農業構造動態調査」のデータによると、普段仕事として主に自営農業に従事している「基幹的農業従事者」は、2014年(平成26年)の約167万人から2023年(令和5年)で約116万人と、9年間で約51万人(約31%)も減少しています。

(出典:令和5年農業構造動態調査結果(令和5年2月1日現在)|農林水産省

また、農業に従事する若者が減少していることも大きな課題の一つです。

こちらも農林水産省のデータによると、基幹的農業従事者の平均年齢は、2023(令和5)年時点で68.7歳。

65歳以上が82万3千⼈と全体の約7割を占め、次世代を担う49歳以下は13万3千⼈と約1割に留まり、高齢化が進んでいます。

(出典:令和5年度 食料・農業・農村白書|農林水産省

都市部への若者の流出、農業に必要な初期投資や収益の不安定さ、気候変動による不作リスクなどが、この職業への関心を減少させて人手不足や後継者不足につながっています。

「〇〇さん家は足腰が悪くて畑に行けてないんだって」

「畑を継ぐ人がいないから売り払おうか悩んでたよ」

など、私も田舎ならではの会話を耳にします。

こうして、自身の家族も同じような状況になってくると、「どうにかしたい」「どうにかしなければ」という思いが、ふつふつと湧き上がってくるのです。

日本の農業を救うかもしれない「XR農業」

上記のように、「人手不足」と「後継者不足」という二大問題を抱え、日本の農業は危機的状況にあります。

これにより、食料自給率の低下なども問題になっています。

こうした惨状を救うかもしれないのが、スマート農業の中でもXR技術を中心とした「XR農業」です。

VRやAR、MRといったXR技術は、ゲームアプリやエンターテインメント施設等でよく目にするかと思いますが、実は、農業においても、農作業の効率を飛躍的に向上させ、現場に大きな変化を与えることが期待されているのです。

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特に、遠隔作業支援は、農業の人手不足や技術継承の問題を解決する新しい方法として注目されています。 実際、「XR技術×農業」という組み合わせは、国内外で広がりを見せているのです。

では、農業の現場でどのように使われているのか、どんな風に農業を変えているのか、具体的な事例をご紹介します。  

XR農業はスマート農業の一種

XR農業の事例を説明する前に、まずは「スマート農業」について解説します。  

農林水産省によると、「農業」×「先端技術」=「スマート農業」として「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業」と定義されています。 

(出典:スマート農業をめぐる情勢について|農林水産省

ざっくり言えば「IT技術を駆使して行う農業」で、具体的には、ロボット技術、情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)といった先進技術を活用し、生産現場の課題を解決しようとする取り組みです。

Agriculture(農業)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語「アグリテック」と呼ばれることもあるほか、海外ではAgtech(アグテック)やFarmTech(ファームテック)とも呼ばれています。

XR農業はこのスマート農業の一種です。

実際のXR農業の事例を紹介

①「ローカル5Gを活用した遠隔農作業支援」実証試験 / NTT東日本・公益財団法人東京都農林水産振興財団・株式会社NTTアグリテクノロジー

スマートグラスとAR技術を組み合わせた遠隔農作業支援をNTT東日本とNTTアグリテクノロジー、東京都農林水産振興財団が連携し、実施しています。

現場の農業未経験者と指導者側の研究員をARデバイスでつなぎ、デバイスを通して送られてくる映像と畑に設置されたカメラやセンサーの情報を元に、指導研究員が状況判断し現場の作業員と会話しながら作業ができます。

この遠隔農業支援により、栽培未経験者でも週休2日制で350株のトマト栽培に成功したそうです。

作物を計測する際はARデバイスを通して、計測したい箇所の両端を指でポイントすると自動計測し、データをクラウドに自動で集計することで、時間効率化も図れます。

さらには、蓄積されたデータへのアクセスも容易になり、AIを駆使すればより高度な処理が短時間で行われ遠隔指導の精度を向上することが期待できます。

遠隔指導は人手不足の解消だけでなく作業効率も改善できるため、注目されているプロジェクトの一つです。

(出典:『ローカル5Gを活用した遠隔農作業支援』 実施状況報告会|NTT東日本・NTTアグリテクノロジー

②農作業補助アプリ「Agri-AR」 / 株式会社Root

(出典:株式会社Rootが、AR(拡張現実)農作業補助アプリ「Agri-AR」のサービス提供を開始。「平行直線ガイド」や「サイズ計測」など、全11機能を9,900円~。|株式会社Root

2024年4月、農業DXを推進する株式会社Rootは、AR(拡張現実)を活用した農作業支援アプリ「Agri-AR」のサービス提供を開始しました。

このアプリは、2022年4月から農林水産省の予算支援を受けて開発され、埼玉県深谷市の農園の協力を得て実証実験が行われました。

その結果、現場の意見を反映し、作業ラインのガイドが表示される「平行直線・ポイントガイド」や果樹の熟度をAIが判定してくれる「AI果樹熟度判定」、圃場全体のマッピングを行える「空間マッピング」などを含む11の機能が実装されました。

ARデバイスがなくてもスマートフォンで利用可能で、全機能利用で税込み9,900円/2ヶ月(2ヶ月更新)と、初期費用や運用コストの面でも手が届きやすい価格帯となっています。(一部機能のみでの利用料金も用意されています。)

「Agri-AR」は、農家の方々の負担を軽減し、農作業の効率化を実現するための強力なツールになります。

農業の未来を切り拓くための一歩として、多くの農家の方々に利用されることが期待されます。

▽AR農作業補助アプリサービス「Agri-AR」公式ページ
https://agriar.root-farm.com/

③ぶどう栽培VR学習システム / 島根県出雲市

島根県では、農業の大きな課題である後継者不足に関して、技術継承や後継者育成をVRを利用して行う取り組みが実施されています。

使用するのはVR技術を用いたブドウ栽培の学習システムで、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、島根県、JAしまね出雲地区本部、出雲市、東芝システムテクノロジーなどが共同開発したもの。

VRゴーグルとパソコンをつなぎ、VR空間にブドウ園を映し出して訓練を行います。収穫や剪定の手順などを学ぶことができ、学習モードと実践モードで各作業の訓練が可能です。

就農5年以内のブドウ農家約10人を対象に訓練したところ、全体収穫量の中で良品が占める割合「秀品率」が22%から36%へとアップ!

また、県内の農林高校や農林大学校を対象とした訓練においても、回数を重ねるごとにシミュレーションでの得点が上がり、理解が深まっていることが確認されていて、次世代への技術継承や後継者育成など、人材育成の面でも成果が期待されています。

広がりは海外でも

XRを農業に活用しているのは、我が国だけではありません。その利便性や効率性から、海外でも多く活用されています。

①FarmVR / Think.Digital(オーストラリア)

農業大国で知られるオーストラリアで開発された「FarmVR」は、VRを用いた農業体験を提供しています。

このサービスでは、農業における様々な体験や実際の農場での様子を、VR上でリアリティを持って楽しく体験可能で、バーチャル農場ツアーや農業研修、子供向けの教育・食育などに幅広く活用されています。

イベントでは、「VR農業体験」として、デバイスを使ったトラクターの疑似操縦体験なども行っています。公式サイトでは、小さな子どもがハンドルを握り、仮想空間上で運転している様子も。

こうした幼少期からの教育で農業に興味を持つ子どもが育っていることが、オーストラリアが農業大国である理由なのかもしれませんね。

②農業・農機具向けVRトレーニングプログラム / Queppelin(アメリカ)

Queppelinは、農業および農機具のVRトレーニングプログラムを提供しています。

プログラムでは、3Dモデリングとアニメーションにより、耕運機をVRでシミュレーション可能。気象状況の変化や土壌の質も再現でき、さまざまな条件下で対応できるスキル向上が期待できます。

公式サイトによると、導入以前は学習に2時間かかっていたことが30分で学習できたり、導入前に比べて学習中に1.5倍気が散りにくくなったりと、同サービスが教育・学習の効率化に役立っていることが窺えます。

こんなに広まっているXR技術

デジタル技術であるXRと農業は、一見すると結びつかないイメージがあるかもしれません。

しかし、ここまでご紹介したように、今では農業の現場でも一般的になり始めているのです。

XR技術は、農業における人手不足や技術継承の問題を解決し、農業をもっと効率的で持続可能なものに変革するための大きな役割を果たしています。

これからもXR技術が進化し、もっと多くの農業従事者や関係者がその利点を享受することで、農業の未来がさらに明るくなることが期待されます。

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https://www.xr-lifedig.com/usecase/240617_01

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この記事を書いた人
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