今では車のカーナビゲーションや、スマートフォンでの地図アプリといったナビゲーションシステムは一般的ですが、それでも上空からの視点の平面図を見て目的地までの道筋をたどるのは、苦手な人にとっては困難なものだと思います。
そんな中、「AR※ナビゲーション」という技術の開発が進んでいることをご存じでしょうか?
※AR:拡張現実(Augmented Realityオーグメンテッド・リアリティ)の略
ARナビゲーションは道や施設を案内してくれる未来のガイドで、ユーザーの行動を最適化し、サポートしてくれます。
ARナビゲーションとは?
ARナビゲーションはARの技術を活用し、リアルタイムでナビゲーション情報を提供する技術です。ユーザーは視界に道案内や役に立つ情報を重ね合わせて表示させることができます。日常の移動からビジネスでのオペレーションまで、幅広い応用が可能です。
例えば、目的地を設定しておけば、そこまでのルートの案内。もしくは街を歩いていてARナビゲーションをかざすとお得な情報が表示されるなど、今見ている視界にさらに有益な情報が表示されます。
ARナビゲーションを使う際の注意点
- 安全の確保
- 個人情報のプライバシーの保護
- 通信環境
ARナビゲーションを使用する際は、現実世界のリスクに備える必要があります。例えば、ナビゲーションに気を取られ過ぎると人とぶつかったり、段差や階段を踏み外したりすることもあるかもしれません。
また、個人にパーソナライズドされた情報を投影するということは、一定の個人データを提供することを意味します。データプライバシー保護の観点から、個人情報の取り扱いや送信しても良いのかなど常にリスクについて考えることが重要です。
さらに、ARナビゲーションにはインターネット環境が必要です。通信環境が悪いところでは上手く機能しないことがあるので注意しましょう。
ARナビゲーションを実現させるデバイス
ARナビゲーションを実現させる主要なデバイスにはスマートフォン、ARグラスやARヘッドセットなどがあり、実はすでに車両や船舶、航空機メーカーは、独自にARナビゲーションシステムを開発、構築しています。
スマートフォンやARデバイスでのARナビゲーション
街や建物の中のARナビゲーションに使用される主なデバイスはスマートフォンです。スポーツ会場や商業施設、観光地などで、ARアプリやWebARを活用することで、専用のARデバイスがなくても動作することができます。ARグラスも、軽さや電池持ち、無線接続などが進化し、さらに手の届きやすい価格になれば、有力なARナビゲーションデバイスとして普及していくでしょう。
車両のARナビゲーション
BMWやメルセデスといった自動車メーカーは、ARナビゲーションを車種によって標準装備しています。また、市販のカーナビでも、ARナビゲーションシステムを搭載したものが増えてきています。ARカメラとGPSやネット接続だけで簡単に車に設置することができ、数万円程度で販売されているため導入しやすいことも魅力です。
BMWの事例
BMW iXでは、ドライブ中の景色をARカメラがリアルタイムで取り込み、ナビゲーション画面に投影してくれます。道案内だけでなく、道沿いの建物やお店情報も画面表示させることが可能です。また、BMWはARグラスを用いたナビゲーション技術も開発しています。
(参照:BMW iX|BMW Japan)
船舶のARナビゲーション
船舶の運航にもARナビゲーションはとても活躍します。海上に出ると道しるべとなるものがほとんどないため、地図を見ながらの操縦が必要です。ARナビゲーションでは進行方向のほか、波の高さなどの注意情報を投影してくれます。
しかし残念ながら、今はまだ船舶のARナビゲーションデバイスに市販品はありません。国内では、総合船舶用電子機器メーカー「古野電気株式会社」が商船三井グループと船舶のARナビゲーションシステムを共同で開発しています。一般の小型船舶でも利用できる日が待ち遠しい人も多いのではないでしょうか。
商船三井グループの事例
前述した商船三井グループでは船舶の運航に古野電気株式会社と共同開発したARナビゲーションシステムを活用しています。
船の運航には進行方向の確認の他、波の状況や他の船舶との位置関係など、全方位での安全確認が必要です。ARナビゲーションシステムは自動で操船に必要な情報をARで投影してくれます。
このシステムは操船サポートの他、船上にいる乗組員の確認などにも使用されています。
(参照:フルノENVISIONシリーズ・ARナビゲーションシステム|古野電気株式会社)
飛行機のARナビゲーション
ARナビゲーションは飛行機の運航にも使用されていますが、こちらも一般的に購入できるデバイスではありません。
例えば、第5世代戦闘機であるF35のHMDS(ヘルメット マウンテッド ディスプレイ システム:Helmet Mounted Display System)に搭載されたARナビゲーションは運航誘導だけでなく、戦闘誘導も同時に行います。ちなみに値段はHMDセットだけで40万ドル(約5,600万円)です。
都営地下鉄のARナビゲーション
(出典:都営地下鉄にGoogle マップの「インドア ライブビュー」を導入します|東京都交通局)
都営地下鉄では、Google MapのARナビ「インドア ライブビュー」が導入されました。これは目の前にスマホをかざすことで、道や建物内の案内がARで表示されるというもので、目的地に向かうためにどの方向に進めば良いのかをより正確に把握することができます。
以下WEBサイトより引用
訪日外国人旅行者の方も含め、東京の地下鉄に不慣れなお客様でも、駅構内から地上の目的地まで迷わず快適に移動していただくことを目指します。まずは都営大江戸線都庁前駅で令和6年1月25日(木)から、ご利用いただけるようになり、順次、都営地下鉄において導入駅を拡大してまいります。
グローバルローカライゼーション技術※により、GPS等の電波が届きにくい地下鉄駅構内でも正確な位置と方向を判別することが可能となります。
※グローバルローカライゼーション技術:AIで数百億枚のストリートビュー画像をスキャンし、お客様が向いている方向を特定する技術で、建物内でもより正確な位置と向きを判別することが可能な技術です。
ARナビゲーションが案内してくれるならば、知らない土地や場所でも地図を見なくても迷わずに散策できそうですね。今後もARナビゲーションの進化に注目していきましょう。