今からたった数年後には、「学校が退屈」という言葉がなくなるほど、とてつもない未来が待っているかもしれません。
あなたの小中学校時代のことを思い出してみてください。
決まった席から見える黒板と窓。机の上には文字だらけの教科書と資料集。いわば、毎日同じ風景がそこにはあったはずです。
しかし、これから遠くない将来、実際に資料集で見た遺跡や人物、生物が目の前に臨場感を持って登場する未来が訪れることをご存知でしょうか。
そうなると、毎日のあなたの授業風景は一変するーー。
というわけで、ここで紹介するのはXRを使った教育業界の進化です。ちなみに、XRとはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の総称のこと。リアルの世界とバーチャルの世界を融合した技術を指す言葉です。
生徒と先生、学校にもメリットだらけ。教育業界のXR活用の事例をご紹介します。
歴史もここまでリアリティがあると楽しい!
XRを活用すれば、タイムトラベル(時間旅行)やテレポーテーション(瞬間移動)が簡単にできてしまいます。これは一体何を意味するのでしょうか。
それは、歴史上の人物にまるで会ったような気分になり、世界遺産・建造物を臨場感をもって体験できるということです。
まず、身近な活用事例からご紹介します。
図鑑、教科書、問題集などにスマホをかざすと、資料集に書かれた人物や建物が3Dでスマホ画面上に現れるというものがあります。これはARの技術を活用して実現できています。文字情報に映像のリアリティが生まれるのでより学習対象への興味が湧くはずです。
しかし、もっと体験度マックスな例もあります。
沖縄観光コンベンションビューロー、凸版印刷、ドコモ、5Gを用いた歴史教育向けVR・ARコンテンツ配信の実証実験を実施
(出典:沖縄観光コンベンションビューロー、凸版印刷、ドコモ、5Gを用いた歴史教育向けVR・ARコンテンツ配信の実証実験を実施|TOPPANホールディングス株式会社)
一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー、凸版印刷株式会社、株式会社NTTドコモは、高品質の4KVRコンテンツを使い、三山時代(琉球時代区分の一つで、1322年ごろから1429年のこと)に建てられた今帰仁城(なきじんじょう)をリアルに再現されたような景色を見ることができる授業を行いました。
5G通信を活用し、VRヘッドセットやタブレットなどのデバイスに4KVRコンテンツを配信することで、生徒は過去の重要な歴史的事件が実際に起こっている場所にいるかのような臨場感を楽しめます。
ほかにも、海外の事例として、EON-XRというARやVRのプラットフォームを使うことで、コロッセオ(円形闘技場)などの古代ローマの3Dモデルに、剣闘士や現在のローマの映像なども追加してローマの歴史を学ぶことができる事例が存在します。しかも、教室にいながらにして!
つまり、これまであった移動距離や物理的制約が解消され、学習におけるコストの大幅な削減が可能になったのです。こんな歴史の授業があったら、おそらく資料集を眺めているうちにウトウトしてしまうことはなくなるのではないでしょうか。
実は、すでに日本の高校でもその動きは進んでいます。
通信制高校のN高等学校・S高等学校では、同校で販売されている教材の多くがVRに対応しており、「(教科書や資料集を)眺める授業」から、VRゴーグルで「疑似体験する授業」が行われています。
もはや、歴史上の人物は資料集に印刷された動かない写真ではなく、眼前に現れた動くキャラクターになるのです。
実験、分解、心肺蘇生…理系領域でもここまで活用できる!
XRが活用できるのは、何も歴史だけではありません。
たとえば、理科の実験。
理科室では本来できないような実験を、VRゴーグルをつけたり、ARを使ってスマホ画面上で行って、実際の化学反応を見られるようになるでしょう。となると、爆発して頭がモジャモジャになった先生の姿をVRゴーグルで眺められる未来が来るかもしれません。
ほかには、工学の領域として自動車について学ぶ授業の事例を見てみましょう。
ある学校では、デジタルエンジニアリング事業を行うSOLIZE株式会社の協力の下、学生が XRゴーグルを装着することで、電気自動車の分解ができ、eアクスル(電気自動車向けの駆動用モーターや、それをインバーターや減速機などと組み合わせたEV用駆動モジュール)の構造が学べる授業を実施しています。
言うまでもなく、実際の自動車を解体し、一つ一つの部品をチェックするのは至難の業。それをXRゴーグルを活用するだけで学生はここまで簡単に行えるのです。何より、コストが圧倒的に安いのは学校側にも大きなメリットと言えるでしょう。
ほかには、XRは医療教育における活用も期待できます。
株式会社Gugenkaが開発した「心肺蘇生ARアプリ」。このアプリでは、スマホの画面上に現れた心停止者のアバターに対して、ARを通じて心肺蘇生の手順を実践し、学習・訓練することができます。本物の人形を用意する物理的コストもいらず、心臓マッサージやAED操作などの方法を学べるため、将来的には医学におけるXRの活用はますます増えることは想像に難くないはずです。
ここまでVRデバイスを使った事例の紹介が多いですが、XRを使った教育事例はそれだけではありません。仮想空間内における「アバター(自分の分身)」を使った授業を行う海外の学校もあります。
その最大の特徴はリアルタイムで共同作業やコミュニケーションが可能なことです。先述したEON-XR プラットフォームには“Spatial Meeting”という機能があります。
この機能を使うと、参加者はそれぞれがいる場所から指定された仮想空間(コードで共有)にテレポート(瞬間移動)でき、その仮想空間内でアバターを使用して、共同作業や会話ができるのです。
先生や学校にとってのメリットも
XRの活用によって、すでに授業における物理的、金銭的コストが軽減される話はした通り。
ですが、ほかにもXRの活用は学校や先生側に大きなメリットをもたらします。
先生側のメリット
例えば、授業のシミュレーションをしたい先生がいたとします。その場合、教室を再現した場所で生徒の前で臨場感を感じながら授業の練習ができるようになるのです。実際の授業でも、XRを使えば生徒たちにわかりやすく映像や体験で授業を提供できるようになるため、XRは先生の補助的役割として大活躍します。
なにより、教材の購入や手間を省くことにも役立ちます。また、校外学習・社会科見学・自然体験学習など、外出する学習の一部はXRで担えるのは間違いないでしょう。
学校側のメリット
わかりやすいのは、大学・学校のオープンキャンパスでしょう。
たとえばARの技術を使えば、専用のアプリを指定の写真などにかざすと、学長のメッセージやキャンパス・学校施設内の様子などを、動画や画像で見ることができるようなオープンキャンパスができるようになります。
受験生はよりその学校での生活をリアルに体感できます。
結局、教育現場におけるXR活用によってどんなメリットがあるのか
と、ここまでさまざまな事例を紹介していくと、教育業界におけるXR活用がもたらす未来が見えてきたはずです。
XRを使った世界、すなわちバーチャル世界では、実験はいくらでもやり直しができるし、(擬似的であるものの)瞬間移動も容易です。
となると、実験や実習においても何度でも失敗できるということです。専門家によると、XRの活用によって、「失敗をしない教育」から「失敗して学ぶ教育」への転換が可能になる、とも言われています。
ほかにも、ネットがつながり、XRの活用があれば、心身の問題等があって不登校の生徒や、その日風邪で休んだ生徒も遠隔授業・オンライン授業で授業に参加できるようになります。
これをもっと大きな社会変化と捉えれば、体験型の授業が増えることで、知的好奇心が刺激され、生徒たちが主体的に問題発見し、生徒たち同士で議論し、さまざまなアイディアを出して能動的に学ぶ姿が生まれるでしょう。
実は、すでにそれを裏付けるデータも存在します。
フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ、イギリス、スウェーデンの学校で740人の学生を対象とした海外の研究機関の調査では、3Dを活用した学習によって、テスト結果が平均17%向上したという結果が出ています。というわけで、XRの活用により、今後は教育現場における授業の体験がまったく異なるものになり、さらにテスト結果もよくなるという最高の未来が待っているのです。
XRの教育業界における最新の活用事例は、またいつかのタイミングでレポートします。