2D/3Dのアバターを身にまとい、動画やライブ配信で日々コンテンツを生み出しているVTuber。その数はすでに2022年には2万人を超えたとされ、最近ではTV番組などでも、その姿や声を見聞きするようになりました。
名称の由来である「バーチャルYouTuber」が示すとおり、VTuberはYouTubeやTwitch(ツイッチ)などの動画・ライブ配信プラットフォームが主な活動の場です。
そんな「画面の向こう側」の存在であるVTuberですが、近年ではAR(Augmented Reality:拡張現実)の技術を活用し、画面の向こう側からリアル空間に近いところに活動の場を広げる事例も増えてきました。
本記事では、ARでも楽しめるVTuberの事例や、その仕組みを紹介・解説します。
YouTubeから飛び出し、リアルに近づくVTuberたち
ARとは、リアル空間の光景に3DCGなどのデジタル情報を重ね合わせ、まるでその場にある・いるように見せる技術のこと。
ARを活用することで、それまでPCのモニターTVの画面越しに見ていたVTuberが、スマホのカメラやARグラスを通して、自分と同じ空間、自分の目の前にいるような体験ができます。
VTuberの側からしても、視聴者により身近なところに自身の姿を映し出すことで、今までできなかったような表現やコンテンツを実現できるようになるというメリットがあります。
AR×VTuberの魅力とは
VTuberとARを掛け合わせることで、従来のYouTubeやTwitchでの配信と比べてどのような魅力が加わるのでしょうか。現在のAR技術で実現できる、大きな特長を2つ解説します。
“推し”のVTuberがリアル空間に出現!?
まずひとつめは、スマホのカメラやARグラス越しに、自分の“推し”VTuberが自分と同じ空間に出現することです。ARで出現したVTuberには自分から近づくこともできるので、PCモニターやTV画面では体験できない、よりリアルに近い存在感を味わえます。
また、YouTubeやTwitchではあまり見ることができない、VTuberの全身姿を見られるのもファンにとっては嬉しいポイントでしょう。
リアル空間では表現できない演出とともにVTuberのコンテンツを楽しめる
ARでは、VTuberを(デバイス越しに)リアル空間に出現させるだけでなく、さまざまなデジタル表現が可能です。
VTuberと一緒に、豪華なライブ会場や、歌に合わせて動く歌詞表示などの別の3Dオブジェクトを出現させたり、光や影の演出を加えたりなど、現実と非現実を重ね合わせた光景が目の前でくり広げられます。
AR×VTuberのイベントやサービスの事例
ここからは実際にARを活用したVTuberのイベントやサービスの事例を紹介していきます。
- にじさんじのARライブ
- ホロライブのARライブ
- その他のAR×VTuberコンテンツ
にじさんじのARライブ
(出典:にじさんじ AR STAGE “LIGHT UP TONES”|ANYCOLOR株式会社)
日本の二大VTuber事務所のひとつである「にじさんじ」(ANYCOLOR運営)は、2021年にARライブ「LIGTH UP TONES」を開催。ニコニコ生放送でのライブ配信に加え、日本全国の映画館でのライブビューイングも実施されました。ARライブではにじさんじ所属のVTuber(ライバー)が生バンドによる演奏でARライブパフォーマンスを披露しています。
同じく、2024年に実施された「NIJISANJI EN AR LIVE "COLORS" PASTEL STAGE & VIVID STAGE」では、にじさんじの英語圏支部「NIJISANJI EN」が同様のARライブパフォーマンスを行いました。
ホロライブのARライブ
(出典:hololive 5th fes. Capture the Moment|カバー株式会社)
にじさんじと並ぶもうひとつの国内二大VTuber事務所「ホロライブプロダクション」(カバー運営)も、大規模イベント「hololive SUPER EXPO」の中でARライブを実施。2024年3月に幕張メッセで開催された「hololive SUPER EXPO 2024」内でのARライブ「Capture the Moment」には、ホロライブ所属のVTuberタレント50名超が出演しています。
なお、ARライブの模様はその一部をYouTubeで見ることができます。
その他のAR×VTuberサービス
もっと手近なところでは、スマホで利用できるAR×VTuberのサービスもあります。
(出典:「ホロライブプロダクション」所属VTuberといつでも会えるスマートフォンアプリ『ホロリー』を本日リリース!|カバー株式会社)
先に紹介したホロライブプロダクションを運営するカバーは、スマホアプリ「ホロリー」をリリースしています。同アプリを使うと、スマホの画面越しにホロライブのVTuberタレントがARで出現。ARカメラモードで写真や動画を撮影することができます。
また、NHKが公開しているARコンテンツ「北空すずら ARでVTuberが目の前に」では、スマホのWebブラウザからVTuberの北空すずらを呼び出して、スマホのカメラ越しにリアル空間に配置して写真を撮ることができます。
AR×VTuberを実現する仕組みは?
大規模なARライブから手軽なスマホアプリまで、ARとVTuberを組み合わせたコンテンツは大小さまざま。では、ARとVTuberの組み合わせをどうやって実現しているのでしょうか?
リアル空間の映像に3DCGをリアルタイムで重ね合わせる
AR×VTuberのコンテンツは基本的に、リアル空間の映像にVTuberの姿を含めた3DCGを重ね合わせることで実現しています。ARでは3DCGの大きさや位置をデータとして持っているので、近づけば大きく、離れれば小さくといった表現も可能です。また、VTuberや3Dオブジェクトは後ろ側や上下に回り込んで見ることもできます。
スマートフォンではARKit(iOS)やARCore(Android)といった、ARコンテンツ制作のための開発フレームワークがあります。その他、WebブラウザだけでARを実現する「WebAR」のためのツールやサービスなども利用可能です。
一方、大規模なARライブでは本格的なバーチャルプロダクションシステムを使い、より高品質なARコンテンツを実現しています。もちろん、制作に必要な設備やコストはスマホアプリとは桁違いに大きくなります。
ARライブの意外な落とし穴
先に紹介したにじさんじ・ホロライブのARライブですが、実は大きな落とし穴があります。
これらのARライブはYouTubeや各種配信プラットフォームで見ると、たしかに現実の光景にVTuberが出現しているように見えます。
しかし実際のライブ会場では、VTuberは会場にある大スクリーンに映し出されており、多くの人がイメージする「あたかもその場にVTuberが実在する」ような体験にはなっていないのです。
「イベント会場にいる観客全員がスマホを取り出して、舞台に向けてカメラをずっとかざしながらARライブを楽しむ」というのではライブの醍醐味はなくなってしまいます。また、ライブ会場規模の大人数が同時に同じAR体験をすることは技術的にもまだ実現できていません。
誰もがARでVTuberを楽しめる未来は来るのか?
ここまでVTuberをARで楽しめるイベントやスマホアプリを紹介してきましたが、もっと手軽に、もっと快適にVTuberのARコンテンツを楽しめるようになるには、AR技術のさらなる進歩が欠かせません。
誰もがARでVTuberを気軽に楽しめる、そんな未来を実現するかもしれないのがARグラスです。
高性能なARグラスの普及で真のARライブが実現する!?
ARグラスとは、ディスプレイやスピーカー、CPUやセンサーなどを搭載したメガネのこと。メガネのレンズ部に映像や情報を表示し、現実の光景と重ね合わせることでARを実現します。
顔にかけるメガネであれば、スマホのようにずっと腕を上げ続ける必要もありませんし、先に解説したARライブ会場の問題も、メガネ型デバイスであれば解決できる可能性があります。
こうした現状のなか、NTTコノキューデバイスは、2024年9月9日に同社製グラス型XRデバイス「MiRZA(ミルザ)」を発表しました。
このデバイスは2024年秋に発売が予定されています。
▽MiRZA公式サイトはこちら
https://www.devices.nttqonoq.com/mirza/xrd-t01/
今後このようなデバイスが続々と登場し、日常生活に普及していくと、場所を問わず好きなところでライブが楽しめるなど、VTuberの楽しみ方もさらに進化していくのかもしれません。