「メタバース」という言葉は広く知られるようになってきました。しかし、実際にメタバースを利用しているユーザーは少ないのが現状です。メタバース普及を妨げている要因は何なのでしょうか。
本記事ではメタバースを普及させるための課題、メタバースを普及させるうえでARが果たす役割についてまとめて解説します。
実はメタバースを利用したことのある人は18%
2023年末に電通が実施した「メタバースに関する意識調査2023」では、「メタバース」という言葉を認知する日本人は82.1%でした。一方で、実際にメタバースプラットフォームを利用したことのある人は18.0%に留まりました。
また、メタバースの利用者は年代によって偏りがあります。Z世代(※1)においては約39.9%がメタバースの利用経験がありますが、40〜50代の利用率は9.0%です。
(参考:電通、「メタバースに関する意識調査2023」を実施|株式会社電通)
すでに、3Dゲームやライブコンサートが催せるメタバースプラットフォームは多数あります。認知度が向上しているのにもかかわらず、なぜ利用者数は伸び悩んでいるのでしょうか。
主な要因としては、技術的制約やコンテンツ不足が挙げられます。
※1: Z世代とは1990年代中半から2010年代序盤に誕生した世代のこと。
技術的制約
メタバースが普及しない要因の一つが「技術的制約」です。メタバース体験には、高性能なVRヘッドセットなどが必要になる場合があります。VRヘッドセットによるアバターの制御、VRヘッドセットのレンズのピント調整やコントラストや色の調整、両目の距離を調整する瞳孔間距離(IPD)などは初心者にとって難しく感じることもあります。
開発面での技術的制約もあります。メタバースは3Dモデリング、リアルタイムレンダリング、ブロックチェーンなどの最新技術を活用して構築されます。これらの技術を用いて総合的にメタバースを構築・管理できる企業は多くありません。
コンテンツ不足
ゲームやコミュニケーション分野のメタバースは、一定の盛り上がりを見せています。しかし、幅広くユーザーを取り込むためには、教育やビジネスなどの分野でもコンテンツを充実させることが重要です。
コンテンツを充実させる取り組みとして、UGC(※2)に注目が集まっています。世界的に有名なメタバースプラットフォーム「Roblox」では、ユーザー自身がメタバース空間を作成できます。また、コンテンツ開発ユーザーに収益化の可能性をもたらすことで、さらなるコンテンツの多様化が期待できます。
※2:UGC(User Generated Content):ユーザーが生成するコンテンツのこと。
メタバースにおけるVRの課題
VRは没入感のあるメタバース体験を実現する一方で、コスト、ユーザビリティ、身体的負担といった課題もあります。
これらの課題を、次の表にまとめました。
課題 | 内容 |
コスト | ・高額なVRデバイス ・場合によっては周辺機器(PCやコントローラー)も必要 |
ユーザビリティ | ・思うように操作できない ・安全にVR体験ができる空間が必要 |
身体的負担 | ・ヘッドセットの重量による身体への疲労 ・VR酔い(サイバーシックネス)のリスク |
VRデバイスは一般的に高額です。Meta社やPICO社のVRヘッドセットは数万円程度します。VR体験によっては、PCやコントローラー、サポートツールなどが追加で必要になる場合もあります。
また、多くのVRデバイスは操作が複雑であるため、3D空間でのアバターコントロールに慣れるまでには、しばらく時間がかかるでしょう。
身体的負担も課題です。多くのVRヘッドセットの重量は1kg〜3kg程度です。長時間装着すると首や肩に疲労がたまります。VR空間での動きに慣れていないユーザーは、VR酔い(サイバーシックネス)を感じることもあるので注意が必要です。
▽関連記事:「気持ち悪いのはあなただけじゃない!」“VR酔い”は〇%が経験します!VRで酔いまくった私が語るその対策
https://www.xr-lifedig.com/beginner/240418_01
ARはVRの課題を解決する
メタバースでの没入感を高めるために、VRは効果的です。一方で、前述の通り、VRにはコスト、ユーザビリティ、身体的負担といった課題があります。そこで注目されているのが、「AR(Augmented Reality:拡張現実)」です。
ARはコストやユーザビリティ、身体的負担といったVRの課題を解決してくれます。
コスト削減
ARグラスの価格帯は数千円から数十万円まで様々ですが、スマートフォンでARを体験できるWebARといった技術も利用可能です。ブラウザからQRコードなどを読み取るタイプと、対象をカメラで映し出すだけでARコンテンツが表示されるタイプがあり、気軽にメタバースを体験することができます。
開発側もApple「ARKit」やGoogle「ARCore」といったビルドアップツールを使用することで、すぐにARコンテンツが作成できます。
ユーザビリティの向上
VRデバイスと比較すると、ARデバイスの利便性はとても高いといえます。ARグラスであれば、バンドなどで頭部に固定する必要もありません。日用品のメガネのように、気軽にかけて外すことが可能です。
身体的な負担も軽減
ARグラスなどのメガネ型デバイスは非常に軽量です。AmazonでベストセラーのARグラス「XREAL Air 2 Pro」で75g、売れ筋商品の「VITURE One」で78gです。VRデバイスに比べ、身体的な負担を軽減できます。
ARがメタバース普及の鍵になる
ARデバイスを用いることで、ユーザーは低コストで便利にメタバースを体験することができます。身体的負担も大きくありません。
また、ビジネスや教育の場でにおけるARが果たす役割にも注目です。リモートでの技術指導やスポーツトレーニングなど、メタバースは技術継承にも活用されつつあります。
まずは、より手軽なARが普及していくことで、今後、完全没入型も含めたメタバースはさらに普及することが期待されます。