MiRZA開発の舞台裏を聞く3回シリーズのインタビュー。2回目は ハードウェア編です。今回はMiRZAのハードウェア開発に携わったNTTコノキューデバイスの3名に話を伺いました。
MiRZAの大きな特長の1つが、メガネらしい外観です。ハイスペックでありながらコンパクトにまとめられたそのスタイルは、ひとえにハードウェア設計のたまものといえます。
今回もさまざまなエピソードが聞けることでしょう。
▽前回の「MiRZA開発ストーリー」
MiRZA開発ストーリー ~「XRの新体験」を創出した開発者たち~【第1回:企画・デザイン編】
MiRZA開発のために集結した敏腕技術者たち
まずは皆さんのMiRZAとの関わり、担当分野について伺いました。
NTTコノキューデバイス 技術企画部 主査 木村 祐一郎(きむら ゆういちろう)さんは、2022年10月にNTTコノキューが設立されたのと同時にNTTドコモから出向し、MiRZAの試作機開発に携わりました。
その後、NTTコノキューデバイスが設立された2023年4月から、同社にてMiRZAの仕様策定、量産デザインコンセプト作り(製品版の方針・要件等の作成)を担当しました。
「MiRZA量産機の仕様が固まって以降は“次の二人”にバトンタッチし、本体以外のオプション部品や同梱部品の開発を担当しました」と話す木村さんは、NTTドコモ入社前はNECで携帯電話やスマートフォン、業務用無線機などの開発を担当していたそうです。
NTTコノキューデバイス 設計開発部の田中 周治(たなか しゅうじ)さんは、MiRZAの構造設計と機構設計を担当しました。
「構造設計・機構設計とは、プロダクトデザインに沿って外装部品を設計したり、各種部品の配置などを設計したりすることで、MiRZAの試作機開発から携わりました」(田中さん)
MiRZAに関わる前は、シャープで携帯電話とスマートフォンの構造設計・機構設計を担当しており、NTTコノキューデバイス設立と同時に出向されたそうです。
MiRZAの試作機開発に関わる前、田中さんは携帯電話とスマートフォンの構造設計・機構設計を担当していたとのこと。
本田 愁併(ほんだ しゅうへい)さんもまた、田中さんと同じくNTTコノキューデバイス設計開発部に所属しています。「私は回路設計とそれに関わる評価を担当しました。デバイス内の基板を設計したり、どのように回路をつないで整理するかを検討したりしました」(本田さん)
本田さんもNTTコノキューデバイス設立と同時にシャープから出向し、MiRZAには試作機開発から携わり今に至ります。
試作機段階で機能を盛り込みつつ小型化に取り組んだ
メガネらしくてコンパクトなMiRZAですが、このコンパクトさになるまでには開発側の大変な努力があったといいます。
「試作機段階で小型化しても、後々機能を追加していけば量産機はどうしても大型化してしまいます。そのため、試作機段階で盛り込めるだけ機能を盛り込み、製品化に向けたソフトウェア開発やユーザー体験の評価を実施しつつ、並行してさらなる小型化に向けた技術開発を行っていく方針をとりました」(木村さん)
途中、メガネらしさをより重視し機能を減らすべきかという議論もあったそうですが、最終的には商品性を考慮して機能はそのままに量産機をよりメガネらしく、コンパクトにしていくことに注力することとなりました。
ハード開発メンバーの多大な苦労がうかがえます。
木村さんはオプション製品である「MiRZA度付きインサートレンズ」の設計も手掛けました。このインサートレンズにもこだわりがあると言います。
現在、一般的なXRデバイスが光学系にハーフミラーを採用しているのに対し、MiRZAはLetinARを採用し、レンズ回りの前後方向の厚みを抑えています。そのおかげでインサートレンズを、MiRZA本体のレンズにより近い位置に取り付けられるようになっています。
ここが肝だと木村さんは言います。
「メガネの設計において、角膜頂点からレンズまでの距離の推奨値があるんです。MiRZA度付きインサートレンズはその推奨値に近い距離で取り付けられるようになっています」
その結果、MiRZA度付きインサートレンズは視力補正機能をしっかり果たすことができるのだそうです。
田中さんは「目標とする量産デザインサイズとコンセプトを崩さずに、部品を配置して収めることに苦労しました」と話します。
「メガネらしいスタイルにするため、MiRZA本体主要部分にリジッドフレキシブル基板(ところどころで折れ曲がるように設計された基盤)を採用しています。具体的にはレンズの縁(リム)とブリッジ(左右レンズの間)の上部から、両サイドのツルにかけて1枚の基板が通っています」(田中さん)
田中さんはMiRZAのフィット感についても試行錯誤を重ねました。メガネ設計に関する学術文献を読み漁り、まずはメガネの基礎から研究したそうです。
さらに、「実際にメガネに色々な重さのおもりを取り付けて、設計開発部のメンバーに試してもらい、長時間掛けても不快にならない重さは何gか、調査を繰り返しました」(田中さん)
ところで、MiRZAはつるの先(つるの屈曲部より後方)が絶妙な角度で内側に湾曲し、つるが頭を優しく包み込む機構になっています。この形状・機構も田中さんが試行錯誤の上に導いた最適解だそうです。
頭の大きさは人によって異なりますが、確かに多くの人にフィットする形状・機構になっています。
本田さんはMiRZAの内部配線の設計に苦労したと言います。
「MiRZAを含めて近年のデバイスは高い周波数で通信するため、通信品質を確保することに、より配慮をしなければなりませんでした」(本田さん)
数多くの制約もあったそうです。例えば、つるの左右先端に2基搭載されている電池を充電制御するICの配置場所が限られていました。6DoF対応のための2つのカメラも位置が決まっていました。
「そのような多くの制約の中で高速かつ安定して通信ができ、デザインも損なわないようにパズルのように配線設計を考える必要があった」と本田さんは振り返ります。
さらに、MiRZAはスマホと比べて金属部品が少ないため、熱容量が小さい(使っているうちに熱くなりやすい)ことも悩みの種だったと木村さんは言います。
そのため「発熱量の高いチップを、肌に当たる部分からなるべく遠ざける工夫もしました」(木村さん)
視度補正の観点からもメガネらしいデバイス
ハードウェア担当者として、MiRZAの注目してほしいポイントを伺いました。
「やはりメガネらしいXRグラスであるという点です。視力が弱い人でもMiRZA度付きインサートレンズを入れれば普段お使いのメガネと同様に、違和感なく利用できます。フィット感についても、田中さんが頑張ってくれたおかげで非常にバランス良く仕上がっています」(木村さん)
なお、MiRZA度付きインサートレンズは球面度数(近視または遠視の度数)-10.00~+4.00/乱視度数0.00~-2.00が用意され、多くの人が自分に適合するレンズを選択できるようになっています。
「ご自身の視力に合わせて使えるという意味でも、MiRZAは真にメガネらしいデバイスと言うことができます」(木村さん)
田中さんもまたMiRZAのメガネらしさに注目してほしいとのこと。
「つるが太すぎないので、メガネの外観としては違和感が少ないと思います。この外観を実現するため、先ほど申し上げた基板を工夫したこともポイントだったと思います」(田中さん)
本田さんは「カメラやセンサーなど回路設計のチームで丁寧に設計、評価したこともあり、MiRZAは全体的によく仕上がっているデバイスで完成度も高いです。とにかく使っていただきたいですね」と話しました。
ガラケー開発の知識と経験がMiRZAに注ぎ込まれた
次に、皆さんにMiRZAの開発を通じて得た学び、気づきについて伺いました。
木村さんは次のように話します。
「携帯電話の黎明期に社会人として働き始め、携帯電話のピークを開発者として過ごしてきましたが、MiRZAの開発はその時とよく似ていました。新たなデバイスを世に送り出し、これからどんどん普及するだろうという達成感が得られました」
「スペック的にも国内初のプロダクトだと思うのですが、これは携帯電話の開発知識がなければ不可能だったと思います」と木村さんは続けます。スマートフォンの開発ではなく、「ガラケー」と呼ばれる携帯電話の開発知識。これこそが欠かせなかったと言います。
というのも、MiRZAのつるの屈曲部にはガラケーのヒンジのノウハウが応用されているそうなのです。基板設計も携帯電話開発における電気関係の知識があるエンジニアでないと作れなかったと木村さんは言います。
さらに筐体内部に高密度に部品類を実装しながら法令的にもクリアする必要があります。そのノウハウを持ち、技術に長けているのは、ガラケーをつくっていた技術者なのだそうです。
「多くの国内メーカーが携帯電話の開発から撤退する中、シャープで開発を担当していたエンジニアが参画してMiRZAを作り上げ、ローンチできたというのは非常に大きなことだと思います。おそらく日本のエンジニア、特にガラケー開発に関わってきた脂ののったエンジニアでないとMiRZAはつくれなかったでしょう」(木村さん)
かつて一世を風靡したガラケーに携わっていたエンジニアたちの技術が、MiRZA開発の根底にあったとは――。新鮮な驚きがあるとともに、その時代を知るユーザー層にとっては心を強く打つ話です。
田中さんは「シャープに入社して以来、携帯電話やスマートフォンの開発や設計を担当してきたのですが、今回MiRZAという新しいプロダクトにチャレンジできて新鮮な気分を味わえ、とても楽しかったです」と話します。
本田さんも「これまでシャープの中だけで携帯電話やスマートフォンの開発をしてきましたが、出向して他の企業のエンジニアと一緒に仕事することで、新しい手法や思考法を得られました」と話します。
NTTコノキューデバイスに、新旧そしてさまざまなルーツをもつ人材が集結することでプラスの効果がもたらされ、MiRZAの開発につながったことがうかがえます。
より多くの人々に、楽しく便利なXRデバイスを
最後に、皆さんに今後どのようなXRデバイスを手掛けてみたいか聞いてみました。
木村さんは「必ずしもメガネ型にとらわれることなく、人に近しく万人に受け入れられるデバイスを開発してみたい。MiRZAの延長線上でいうと、よりコンパクトにしてデザインに自由度をもたせ、もっと多くの人たちに掛けてもらえるようなものをつくりたい」と話しました。
さらに木村さんは、「MiRZAとはまた違う、スマートフォンと連携して皆さんの生活に寄り添うようなデバイスの開発ができればとも考えています」と語ります。きっとまた、従来にない技術革新を実現したものになるのでしょう。
田中さんは「多くの人に手に取っていただけるような、“敷居の低い”デバイスをつくりたいと考えています。MiRZAも完成度は高いですが、もっと手軽に掛けられるデバイスを手がけてみたい」と話します。
本田さんは「MiRZA自体をさらに進化させたいです。例えばバッテリーを丸1日もつようにして、1日1回の充電で済むようになれば、もっと普及が進むと思うんです」と語りました。
【第2回:ハードウェア編】、いかがだったでしょうか?ものづくりの舞台裏には本当に、数多くのドラマがありますね。
次回は3回シリーズのフィナーレを飾る【第3回:ソフトウェア編】をお送りします。お楽しみに!