
「モーションキャプチャ」とは、人やモノの3次元での動きをデジタルで記録する技術のこと。
かつてモーションキャプチャのためのデバイスは高価で専門家が使うようなものばかりでしたが、今は一般ユーザーが使える手頃な製品も増えています。
そんな“モーションキャプチャ界隈”で、少々気になる製品が現れました。どうやらVRChatやVRゲームのヘビーユーザー、VTuberなどが熱い視線を注いでいるようなのです——。
果たしてどんなモノか?なぜ注目を集めているのか?取材をしてきました。
「SteamVR」対応ヘッドマウントディスプレイに対応
今回ご紹介するのはDiver-X株式会社がリリースした光学式モーションキャプチャデバイス「ContactTrack」。2024年末に発表され、2025年1月に同社ECサイトで発売されるや否や、即完売となった人気商品です(2025年3月現在、5月出荷分を販売中)。
「本製品はVRChatのようなメタバース空間でアバターの動きを自分の体の動きと同期させたり、モノの位置や回転を検知・追跡したり、研究開発で使うことを想定してつくりました」とDiver-X株式会社の創業者でCTOを務める浅野 啓(あさの けい)さんは言います。
ContactTrackを構成するのはトラッカーとカメラの主に2つ(その他、USB2.0ケーブルなどの付属品があります)。トラッカーは1つの重さが約50gと軽量、カメラはいわゆるアクションカメラ程度の小型サイズです。
「ContactTrackスターターキット」(税込64,980円)にはトラッカー2つとカメラ2台が付いてきます。カメラとトラッカーは単体でも販売しており、買い増しすることができます。


フルトラッキングを行う場合、体の適当な箇所にトラッカーを取り付けます。 カメラは各トラッカーを検知・追従できるよう、部屋の中に設置します。
スターターセットにはカメラが2台付いてくるので、用途にもよりますが、カメラのカバー範囲を広げるため、2台のカメラを少し離したり、向きを変えるなどして設置します。
ContactTrackはMeta Questシリーズ、PICO 4、VIVE Pro 2 HMD、VALVE INDEXなど、「SteamVR」対応のヘッドマウントディスプレイ(HMD)で簡単にセットアップが可能。VRゲームやVRChatですぐに使えます。
1台のカメラで2つのトラッカーを検知・追従することができ、カメラは4台まで増設できます。
光学・IMU複合式で高精度なトラッキングを実現
ContactTrackの大きな特長が、光学・IMU複合式を採用しているところ。これによりトラッキング精度が高まり、実際の動きを仮想空間上に忠実に再現することができます。だからヘビーユーザーたちが注目しているんですね。
ちなみに光学式は、トラッカーが発信する光の信号(ContactTrackの場合は赤外線)をカメラが捉え、位置と回転をトラッキングする方式。IMU方式は、トラッカーに内蔵されたセンサーが回転と加速度の情報を発し、計算により位置と回転をトラッキングする方式です。
「光学式で1/60秒ごとにトラッキングし、さらにIMU方式で1/60秒の間の位置と回転を計算で導き出します。2つを合わせることで高精度なトラッキングを実現しています」(浅野さん)
補足しておくと、他社がリリースしているトラッキング用デバイスの多くは、光学式またはIMU方式どちらかを採用しているものが多いようです。
高精度であることに加えてもう1つ、光学・IMU複合式のメリットがあります。それは障害物に隠れてしまってもトラッキングができること。
光学式のみを採用したデバイスの場合、トラッカーがカメラの視界から外れた途端、トラッキングができなくなりますが、そんなときでもContactTrackはIMU方式がはたらくのでトラッキングし続けることができます。
例えばHMDを被ったまま部屋の中を歩いて、カメラが捉えることのできない物陰に移動してしまったとしてもトラッキングし続けることができるのです。
さらにもう1つ補足すると、IMU方式のみを採用しているデバイスは、使っているうちに誤差が発生し、その都度、キャリブレーションをしなければならないということがあります。“光学・IMU複合式”であることは、やっぱりすごいんですね。

目指すのは「トラッキングの民主化」
冒頭で触れたとおりContactTrackは使用用途として、オブジェクトトラッキングや研究開発も想定してつくられています。
同社はContactTrackを発売するとともに、トラッカーの心臓部となるチップ「ContactTrackChip」をデバイス開発社向けに提供し、ソフトの開発環境をオープンにするといいます。
トラッキングは医療や製造業などの分野ですでに、技術伝承のためのVRシミュレーションなどで活用されていますが、まだまだ潜在的需要があると同社は見ているのです。
「現在、トラッキングを使ってVRシミュレーションを構築し、そのメリットを享受している分野・業界は非常に限られています。その原因は大きな初期投資が必要だから。しかしContactTrackがあればそのコストを大幅に下げることができます」(浅野さん)
目指すのは、言わば「トラッキングの民主化」だと浅野さんは言います。
デバイス開発社に提供されるContactTrackChipは、サイズが12㎜×25㎜の平板なチップです。外付けが必要なのはバッテリーと赤外線LEDのみ。
「小型化できたのは、トラッキングのコアとなる部分をPC側で処理する方式をとったから」(浅野さん)だそうです。
確かにこれだけ小さいと、色々な形状の色々なものに取り付けることができそうです。同社のこのような取り組みはXRの開発者・ユーザーの裾野を広げ、XRの社会実装をより一層、推し進めることにつながるはずです。
始まりはアニメ「ソードアート・オンライン」
ところでDiver-X株式会社は浅野さんともう一人、同社CEOの迫田 大翔(さこだ やまと)さんが、2021年3月に共同で創業した会社です。
「ハードウェアレベルの最適化で、人間が最高のパフォーマンスを発揮できるインターフェースを提供する」をミッションとして掲げる同社の製品は、いい意味で尖っている——。同社を知る人たちの多くはそう思っているはずです。
光学・IMU複合式を採用し、トラッキングの民主化を目指すContactTrackも、その1つと言っていいでしょう。
同社が最初(2021年9月)に発表した製品「HalfDive」は、「世界初!寝ながらの使用に最適化したVRデバイス」「ゲーム及び寝ながらの作業用途でコンシューマー展開を目指す」をうたい、Kickstarterで資金を募りましたが、技術的課題が多くリリースには至りませんでした。
リリースに至らなかったとはいえ、このアイデア、ものすごく尖がっていると思いませんか?YouTubeでHalfDiveのPV動画を見ることができます。ここに記されたコメントを見ると、発売を心待ちにしていた人たちが世界中にいたことが分かります。
「あれはライトノベル発のアニメ『ソードアート・オンライン』に出てくる“フルダイブ型VRマシン”に着想を得たものです。それにエンジニアなら誰しも『寝ながら作業したいな』と考えますし・・・」と浅野さん。
壮大で困難な目標を立てることを「ムーン・ショット」と言いますが、まさにムーン・ショットに挑む——しかもサラリと挑むその姿勢に、思わず舌を巻いてしまいます。XRの技術がさらに進化し、市場が広がれば、同社はHalfDiveを復活させるかもしれません。
HalfDiveの後に同社は、細かな指の動きまで再現するグローブ型ハンドトラッカー「ContactGlove」「ContactGlove2」、そして今回のContactTrackのような、市場ニーズに寄り添った、しかし、既存の他社製品にはない魅力を備えたデバイスづくりに舵を切りました。
「今後はデバイスの生産スピードを速め、安定性をより高めていきます。そして社会により大きな影響を与えるようなインターフェースの研究開発に、これまで通り取り組んでいきます」と浅野さんは言います。
同社が次にどんな製品を世に放つのか、実に楽しみですね。
ContactTrackにご興味のある方は、Diver-X StoreまたはDiver-X株式会社公式Xアカウントをチェックしてください!