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国土交通省PLATEAUの3D都市モデルを活用した芸術祭が3都市で開催中

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3つの都市空間を舞台にARの芸術祭が開催されています。その基盤に、国が主導する都市3Dモデル化プロジェクトがあることでも注目を集めています。

どのような芸術祭で、どのような目的があるのか——。開催を担う株式会社STYLYの関係者の皆さんにお話を伺いました。

国土交通省「Project PLATEAU」を基盤にした芸術祭

AR技術を使って街全体を「体験型アート」にする芸術祭「AUGMENTED SITUATION D 〜回遊する都市の夢〜 powered by PLATEAU」が開催されています。

これは、空間レイヤープラットフォーム「STYLY(スタイリー)」を提供する株式会社STYLYが運営するイベントで、金沢市(2024年11月8~17日)、広島市(同12月6~15日)、大阪市(2025年1月17〜26日)の3都市で展開される「都市回遊型の芸術祭」と位置づけられています。

この芸術祭は、国土交通省が推進する都市デジタルツイン実現プロジェクト『Project PLATEAU(プラトー)』の一環として実施されています」と語るのは、STYLYのシニアアートディレクターでメディアアーティストとして活躍し、同芸術祭でディレクターを務めるゴッドスコーピオンさん。

お話を伺ったSTYLYのゴッドスコーピオンさん。

Project PLATEAUとは日本全国の都市を3Dモデル化し、デジタルツインの活用を促進する取り組みで、2020年に始まりました。日本全国の3D都市モデルを整備するとともに、オープンデータ「PLATEAU DATA」として公開し、誰もがアクセス可能となっています。

データは国際標準フォーマット「CityGML」形式で提供されており、研究者や開発者、企業がデータを自由に使うことができ、防災・環境対策といった都市計画シミュレーションの実施に活用したり、スマートシティ施策のための元データとして利用したりすることが期待されています。

今回の芸術祭はProject PLATEAUを用いてさまざまな社会課題を解決する取り組み、「まちづくりDXの推進に向けたユースケース開発業務」(令和6年度)に株式会社STYLYが採択され、開催に至ったとのことです。

都市に設置されたAR作品をどのように鑑賞するのか?なかなかイメージが湧かないかもしれません。

参加者はまず、各都市に設けられたインフォメーションセンターに立ち寄り(金沢市ではJR金沢駅構内、広島市ではJR広島駅構内、大阪市では大阪城公園内に設置)、鑑賞方法の説明を受けつつ、作品が展示されている場所のマップを受け取ります。

そして、街中を歩きながら作品が設置された地点を訪れ、STYLYが提供するスマホアプリ「STYLY」を起動。特定の場所にあるマーカーを読み取って空中にかざし、AR作品を鑑賞します。

AR作品はアプリ「STYLY」を使って鑑賞します(画像は2023年に東京・渋谷で開催された都市型XR展覧会の時のもの)。
来場者はスマホでSTYLYアプリを起動し、空中にかざして作品を鑑賞します。

各都市には複数の鑑賞ポイントが設置され、1つの街の中でさまざまな作品を鑑賞することができます。観覧料は無料。

なお、STYLYはAR/VRの制作ツールでもあり、クリエイターはアート、音楽、ゲームなどオリジナル作品を作成し、アプリを介して配信することも可能です。

金沢市での開催で、JR金沢駅前の鼓門に設置された作品。作品名:もしも、他のいきものになったら 作家名:ゴッドスコーピオン

多ジャンルの作家を集めることで「ARの表現」が拡張される

各都市では、国内外で活躍するさまざまなアーティスト、クリエイターによる作品に加え、その都市で事前に実施される市民参加型の「AR作品制作ワークショップ」で作成された作品も展示されます。

プロの作品だけではなく、市民の作品が展示されることで、この芸術祭が広く開かれていることが示されています。さらに、各都市にゆかりのあるアーティストを誘致することで、展示内容に都市ごとの色合いも引き出しているようです。

参加アーティストの選定には、次のような狙いがあると言います。

誘致したアーティスト、クリエイターは必ずしもARの専門家ではありません。彫刻家や建築家、アニメーターなどさまざまなジャンルの作家に広く声をかけています。多様な視点を取り入れるためです」と話すのは、同芸術祭でキュレーターを務める吉田山(よしだやま)さん。

ARを活用した芸術と聞くと、どうしてもテクニカルなものというイメージが先行しますが、ARでの制作経験がない作家に依頼することで、新たな視点の作品が生まれます。その作家自身にとっての初体験を、私たちもARを通じて共有できるのがこの芸術祭の1つの特徴です」(ゴッドスコーピオンさん)

AR好き、アート好きが楽しめるのはもちろんですが、そのようなマニアだけが集まる催しでは決してないということです。

お話を伺ったキュレーターの吉田山さん。

ARが新たな人の流れを促す

そして、この芸術祭のもう1つのテーマが「都市回遊型」の芸術祭であること。

本芸術祭のコンセプトとして、金沢市、広島市、大阪市の各都市をつなげるという意味合いもあります」と話すのは、同芸術祭の企画を担当したSTYLY 地域共創プロデューサーの澤田 有人(さわだ ありと)さん。

「都市ごとに展示作品も変わりますから、1つの都市で作品を鑑賞しながら街を回遊するだけでなく、金沢市、広島市、大阪市の各都市を巡っていただけるような芸術祭として企画しました」(澤田さん)

お話を伺ったSTYLY澤田 有人さん。

同芸術祭の開催においては各都市の自治体と連携している他、JR西日本とも連携を図ることで、各都市間で新たな人の流れを促すことが可能になるとのこと。

事実、今回のイベントを目的とした人の移動が数値として見えてきているそうで、同様のイベントは地方創生や、新たな人の流れの創出などに大きなメリットがありそうです。

今回の芸術祭を通じてARならではの決定的なメリット、そして今後の展望も見えてきたとも言います。

絵画のようなリアルな作品を展示する場合、今回の3都市でこの期間内で開催するには、作品の運搬や設営に時間的・物理的制約があるので難しい。しかしARによる展示はそのような制約が少なく、これだけの規模感で実施することができます」(吉田山さん)

複数の都市間をつなぐ催しでARの活用が有効なのは間違いなさそうです。

こちらも金沢市で展示された作品より。作品名:Re:IMG 作家名:梅沢和木(本作品は大阪市での開催においても展示される予定)

一方、「さまざまなAR/XR技術が登場して話題になっている昨今ですが、より多くの人々に認知されるにはまだまだ時間がかかると思っています」と澤田さんは語ります。

今はほとんどの人がインドアで楽しんでいるXR技術を、都市空間やパブリックなスペースで楽しめるということが実証できれば、より普及が進むと考えており、我々はそこにフォーカスして今回の芸術祭を開催しました」(澤田氏)

さらに澤田氏は、芸術祭を支えるものとして、Project PLATEAUの3D都市モデルデータは欠かせないものだと語ります。

「Project PLATEAUについても、今回の芸術祭で一般市民の方たちに認知されるとともに、新たな活用方法が広がっていくのでは」(澤田さん)と続け、さまざまな事業者が3D都市モデルを使った技術やサービスの展開を進めることにも期待を寄せています。

「AUGMENTED SITUATION D 〜回遊する都市の夢〜 powered by PLATEAU」の開催は大阪市を残すのみとなっていますが、前2会場よりもさらに多くの来場者が訪れることが予想されています。

展示される芸術作品を目にした多くの皆さんが、ARの有効性や可能性を感じ、ひいてはXR技術全般が広く認知されるきっかけになることでしょう。

読者の皆さんもぜひ、2025年1月17日(金)~1月26日(日)に開催される大阪市の展示会場を訪ねてみてください。

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