数々のギネス世界記録™を獲得し、バーチャルばかりでなくリアルにも展開されている巨大メタバースイベントがあることをご存じですか?
知らないという方のために、今回はその魅力をご紹介しましょう。
イベントの仕掛け人で、メタバースのさまざまな取り組みを展開する、株式会社HIKKYの舟越 靖(ふなこし やすし)社長に話を伺いました。
有志の集まりからスタートし飛躍的成長を遂げる
2024年7月20日から8月4日にかけての16日間、「バーチャルマーケット(通称:Vket) 2024 Summer」が開催されました。来場者数は延べ130万人以上! まさに世界最大級のメタバースイベントです。
開催初日にはXで「#Vketはじまったな」のハッシュタグでトレンド1位となり、世界トレンドでも2位にランクイン。さらに、出展社であるサントリー株式会社と共同でギネス世界記録に挑戦し、「1時間でXに投稿されたアバターが乾杯している写真の最多数」として、Vketとしては通算4回目のギネス世界記録™も獲得しています。
まずは舟越さんがVketについて説明してくれました。
「バーチャル上の会場にログインすると、アバターや3Dアイテムを売り買いでき、さらには服、PC、食べ物といったリアル商品も購入できるイベントです。それ以外にもバーチャル会場で夢の乗り物に乗ったり、音楽ライブで盛り上がったりなど、メタバースをとことん体感できる要素がふんだんに用意されています」
さらに、「商品はクリエイターが出品している他、ユーザーによるサークルや企業・地方自治体等の出展もあり、ユーザーとクリエイターとの出会いの場、企業・団体にとってはコマースやPRの場となっています」と舟越さん。
第1回が開かれたのは2018年秋のこと。
「VR好きコミュニティの有志が集まり、『アバターや3Dモデルを安心して売買できる場を作りたい』との思いからスタートしました」(舟越さん)
翌年から年2回の開催となり、回を重ねて今年の「Vket 2024 Summer」で12回目を迎えました。来場者130万人という数字は過去最多になります。
実はVketでは、2023年の夏から「VketReal」というリアルイベントも行われています。
2024年夏の「VketReal 2024 Summer」は8月3日・4日の2日間、東京の秋葉原2会場と渋谷、大阪・難波の計4会場で実施され、グッズ販売、企業ブース展示、メタバースゲームやコラボカフェ、ステージイベントといったリアルコンテンツが提供されました。
2日間の来場者は約5万人に達し、現地の各会場が盛り上がったのはもちろん、SNSでも大いに話題になったのです。
これは幕張メッセのような展示会場で開かれる見本市の来場者数と肩を並べる規模の数字です。2023年の初回でも4万人という数字は、まさに驚きといえるでしょう。
リアルイベントでメタバースの裾野を広げる
ところで、なぜバーチャル世界から飛び出し、リアルイベントを開催したのでしょう。
「そもそもの始まりは、2022年に世の中で“メタバースの幻滅期だ”と言われたことです。確かに企業などでメタバースが過剰なブームとなり、それが一段落する幻滅期はありました。ただ、僕はそのときに学んだことがあったのです」(舟越さん)
かつてインターネットが登場したときも、最初は“何でもできる”から始まったものの、やがて音楽・動画配信やゲームといった個別の用途が追求された結果、一般に広がり、今やなくてはならないものとなりました。
「メタバースも今後は細分化し、そのそれぞれで最適な使われ方が見出される中で一般に広がっていくだろう」
これがこの時の舟越さんの学びです。
「私たちは次の一手が分かっていました。メタバースを広げるには、一般の人たちがバーチャルで熱狂する人たちと気軽に出会い、その熱狂に触れられる場が必要で、しかもそういった場は誰もが足を運べるリアルの世界につくるべきだと」(舟越さん)
その先に見据えていたのは、バーチャルよりもさらに新たな経済圏をつくることです。
具体的にどう実現していくべきかと半年ほど悩んだ舟越さんでしたが、「シンプルにバーチャルマーケット(Vket)の名を冠したリアルイベントにしようということで、思いついたのがVketRealです」
とはいえ同社はバーチャルでの経験は長けているもののリアルイベントには慣れていなかったこともあり、当初の読みでは「期待値込みで5,000から1万人集まれば御の字」と考えていたそうですが、フタを開ければそれをはるかに上回る人々を集客したのはすでに紹介した通りです。
「初回からお子様連れのご家族、外国人観光客、それにお年寄りや車椅子で来ていただいた方もいらっしゃいました。これは予想外でした。開催2回目からは、難しいデバイスを使うような、一般の方々にとってハードルとなる要素をなるべくなくし、より気軽に楽しめるイベントになるよう意識しました」(舟越さん)
バーチャルとリアルが融合することで広がる可能性
バーチャルとリアルの“二刀流開催”となったVket。ごくごく一部になりますがその様子を覗いてみましょう。
2024 Summerは出展・協力企業がVketRealと合わせて85社に上り、一般サークルは1,000以上が出展しました。
中でも注目の出展として舟越さんがまず挙げたのが、出展社であるソニー株式会社の協力により秋葉原、渋谷、大阪の各会場に設置された、「飛び出す! しゃべって繋がるイマーシブストア」です。
「目の前に設置されたソニーの空間再現ディスプレイ『ELF-SR2』の画面の中から、アバターがバーチャル接客してくれるストアです。これまでもバーチャル接客は試しましたが、どうしても平板なイメージにとどまり、没入感に欠けていました」
その点、今回のストアは裸眼立体視で、VRヘッドセット(VRゴーグル)を着けなくても目の前でアバターに接客されているかのような没入感を実現。
「その効果か、バーチャル上やリアル接客店舗と比べてイマーシブストアの客単価がかなり増えました」(舟越さん)
一方、バーチャルとリアル双方に出展した中で舟越さんが挙げるのが静岡県浜松市です。
「浜松市は、うなぎなど地元の“食”の名産品を販売しました。バーチャルではうなぎのつかみ取り、浜松にまつわる3Dモデルのガチャといった地元PRにつながるコンテンツを用意し、キャラクターとのコラボはなかったにもかかわらずリアル会場で売上が伸びました」
そもそもVket自体、物品販売がどんどんと増えていることから、メタバースの経済圏はすでに出来上がっている実感があると舟越さん。そこにはバーチャルの魅力だけでなく、一般への裾野を広げるリアルイベントも想定以上に効いていると手応えを感じています。
VRChatを通じて海外からの来場者も増加
バーチャル会場へのログイン方法には、HIKKYが運営する「Vket Cloud」で構築された会場にスマホやPCなどのWebブラウザで入る、PCからVRSNSプラットフォームのVRChatで入る、スタンドアロンのVRゴーグルからVRChatで入る、という3つの方法が用意されています。
総じてVRChatからログインするユーザーが多く、海外からも多くの参加があります。ちなみに海外の来場者の割合はおよそ4割とのこと。
「最近ではゲームを配信する人気ストリーマーが個人的興味でVketを訪れ、VRChatからのログイン数が飛躍的に伸びました」
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ここまで見てきたように来場者は順調に伸びています。今後を見据えて課題に感じるのはどんなことでしょうか?
「HIKKYのミッションは、誰もが持つクリエイティビティの価値が、幅広く認められる世の中を創り出す『Creative Revolution』の実現です。Vketを始めた時に集まったコミュニティ有志たちはお金儲けを一切考えず、バーチャルマーケットを発展させるために集まりました」
ところが、VketをHIKKYで運営するようになり爆発的成長を遂げるに連れてビジネスとしての色合いが濃くなり、コミュニティとの距離は遠くなり、『Creative Revolution』というミッションからも遠のいていくのを感じたそうです。
「でも、新たにVket Realを始めたおかげで、『Creative Revolution』を取り戻した感覚があります。今後はコミュニティとも一緒になって取り組みを進め、企業単体で儲けたり、バーチャルのシェアを奪い合ったりするのではなく、メタバースの市場や環境そのものを開拓していくことを目指します」
舟越さんのこうした熱い思いを乗せ、Vketはこの冬も開かれます。
オンラインイベントの「バーチャルマーケット 2024 Winter」は12月7日(土)〜22日(日)まで、リアルイベントの「VketReal 2024 Winter」は池袋サンシャインシティで12月21日(土)・22日(日)の開催となっています。
皆さんもVketの熱狂ぶりをぜひバーチャルで、あるいはリアル会場で感じてみてください。メタバースの今と未来に触れることができます。