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私たちの暮らしの基盤をつくる「公共工事」をXR技術でサポート

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XR技術はまだ黎明期にあるといわれています。しかし、産業界では着実に「実装化」が進みつつあります。中でも積極的にXRを活用しているのが建設業界です。

今回はXRコンテンツで公共工事を支える、ある企業の活躍を紹介します。

公共工事×XRのフロンティアを目指す株式会社リモワード

実際に建設される橋のイメージ

(出展:住民説明VR(道路・橋梁業務向け)|株式会社リモワード

2013年創業の株式会社リモワードは愛知県岡崎市に拠点をおくシステム開発会社。創業以来、全国各地の官公庁向けに、洪水・土砂災害のハザードマップといった防災関連システムを提供し、技術を磨いてきました。

役員2人、従業員2人、パート3人という小さな会社ですが(2024年5月現在)、2017年以降、XRを取り入れたサービスを複数リリースしており、その中の一つに同社初のXR関連サービス「住民説明VR」があります。

これは自治体などが公共工事を始める前、文字通り、地域住民に向けて工事の説明をするために使われるVRコンテンツです。説明会参加者にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)をかぶってもらい、VR空間の中で工事が完成したときの様子をリアルに体験してもらうことができます。

例えば川に橋を架ける場合、3DCGで描かれた本物そっくりの川や土手などを背景に、橋の姿を見ることができるのです。

同社取締役の徳光 宏樹(とくみつ ひろき)さんにお話を伺いました。

「工事を始めるにあたり地域の人々は、『一体どんなものができるんだろう?』『地域の景色がどう変わるんだろう?』と不安を抱くものです。説明会はそのような不安を払拭する目的があります」。

工事のために用地買収が必要な場合、地主の方にプロジェクトの重要性を理解してもらい、納得して土地を売ってもらう意味もあるそうです。

かつて、このような説明会では紙資料が配布され、資料に二次元の「パース図」が描かれているのが一般的でした。しかし、それだけでイメージを膨らませるのには限界があります。

「住民説明VRを使えばリアルな3DCGで見ることができますし、歩く人の視点や、空飛ぶドローンの視点などから、さまざまな位置・方角に動かしながら見ることもできます。地域の人たちに工事の内容をより深く理解してもらうことができます」と徳光さんは言います。

防災系システムで培った知見をXRに注ぎ込む

住民説明VRのコンテンツ制作は、ドローンを飛ばして建設予定地の3D計測を行うことから始まります。計測結果から建設予定地の3Dデータモデルを作成し、CADなどで作成した建築物のデータと組み合わせます。

よりリアルな映像にするため、人物やクルマなどのオブジェクトを加えることも可能です。

「当社ならではの特別な技術があるわけではないのですが」と徳光さんは言いますが、同社には他社を寄せ付けない強みがあります。

それは災害系XRコンテンツを一気通貫で制作できること。

XRコンテンツ制作会社の多くはエンタテインメント分野を得意としています。

それに対してリモワードは、創業時から防災系システムを手掛けてきた関係で、防災や建築・土木に対する深い知識があり、土地の3Dデータの取り扱いにも慣れています。相談を受け付けるところからアウトプットまで、一貫して対応が可能です。

さらに、「公共工事は何を作るか、どこに造るか、案件ごとに違います。同じような公共工事でも映像としての“見せ方”は色々ある。なので、お客さまからご要望を細かく伺う必要があります」。

そのスキルやプロセスを確立し、社内の体制を整えていることも同社の強みといえるでしょう。

今後はシースルー対応デバイスに期待

一方、住民説明VRはまだまだ改良の余地があると徳光さんは言います。

「当社は説明会でHMDの貸し出しも行っていますが、実際のところタブレットやスマホでご覧になる方がたくさんいます。HMDでVR映像を見て酔ってしまう方もいますし、重いHMDを嫌う方もいるからです。しかし、タブレットやスマホでは没入感が得にくい」

今後のXRデバイスの進化に期待がかかるところですが、中でも「シースルー方式のHMDやスマートグラスに注目しています。背景が実物そのものになり、よりリアルな体感が得られるからです」と徳光さんは言います。同社では、住民説明VRをさらに進化させた「住民説明AR」をすでにリリースしており、今後、受注に向けて力を入れていくそうです。

仮想現実と仮想空間の融合
「住民説明AR」のデモ画面。河川の洪水氾濫防止のために川幅と堤防の幅を広げる工事の事例で、工事により堤防がどのように造られるか、実際にどこまで用地が必要になるかがわかる。(提供:リモワード)

「説明会は公共工事について人々に理解してもうことが目的ですが、せっかくならリアルなXR映像を見て、いい意味で驚いてもらいたいですし、感動してもらえたなら、なおうれしい」

そんな日がやってくるのもそう遠くはなさそうです。

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