XRデバイスやコンテンツを含む「メタバース市場」は世界規模での拡大が見込まれています。国内市場も2024年の4986億円から2027年には2兆59億円まで広がると予測されています。
（出典：メタバースの国内市場動向調査（2023年）｜矢野経済研究所）
一方で近年、XRにやや“足踏み感”があったことも事実。果たして今後どのような展開がみられるのでしょうか？
『メタバース×ビジネス革命』などの著書がありXR業界にも詳しい、フリージャーナリストの西田 宗千佳（にしだ むねちか）さんに話を伺いました。
高性能なXRデバイスが各社から登場
「今の日本はXRの普及に向けた“市場形成の芽”がようやく見えてきたところです。2024年下半期は新たな局面を迎えると言ってよいでしょう」と西田さんは言います。
その理由は高性能なXRデバイスが相次いで発売されるからです。
「米国で今年2月に発売されたApple Vision Proが日本では今年6月28日に発売されました。さらにNTTコノキューデバイスがMWC Barcelona 2024（MWC 2024）で発表したグラス型XRデバイスを年内に発売する予定（※1）。
韓国サムスン電子が米Google、米クアルコムと開発中のXRデバイスもこの下半期に発売されると言われています。2023年末に発売されたMeta Quest 3と合わせて、2024年末までに業界ビッグプレーヤーのXRデバイスが勢ぞろいします」
2024年後半、これらのXRデバイスがテレビやネットなどさまざまなメディアで取り上げられ、新しくて便利な使い方が紹介され、人々に「こんなこともできるんだ！」と強く印象付けることになると予想されます。
XRが普及するうえで、その影響はとても大きいと西田さんは言います。
「コロナ禍で、VR空間でイベントを開くなどXR技術が一気に注目を集めました。しかし、ほとんどの人がPCやスマートフォンでコンテンツを見ていました。結果、十分な没入感が得られず、『XRって、こんなもんか』という印象を人々に与えてしまった。2024年後半のメディア報道により、その印象が覆される可能性はあります」
※1：取材後の2024年6月には世界最大規模のXRイベント「AWE USA 2024」にも出展しました。
XRがコミュニケーションに革命を起こす
「新たなXRデバイスが市場に投入されると共に、新たなXRコンテンツやアプリケーションが出てくるはず。それらが潜在ユーザーの興味を喚起し、デバイス購入に踏み切る人も出てくるでしょう」
中でも西田さんが強い関心を寄せるのがコミュニケーションツールです。
「例えば、今でもPCやスマホ、タブレットでテレビ会議はできます。しかし画面の大きさが限られるため、相手の顔が小さく表示され見えにくい。また、画面とカメラの位置が異なるので相手と視線を合わせられません。没入感に乏しいんですね。しかしXRを使えば、自分の部屋の中に相手の等身大の3D映像を浮かび上がらせ、目を合わせながら会話することもできます。その“視界”の中にLINE、Facebook、Xなども組み込まれるでしょう。これまでとは一線を画すコミュニケーション体験になるのは間違いありません」
一方でXRが幅広く、多くの人たちに普及するまでには、まだまだ時間がかかると西田さんは見ています。
「まずはデバイスの重さ。より軽く、快適につけられるほうがいい。それとユーザーへの提供価値、さらに価格。現在、各社この三つのバランスを探っている状況です。
バランスが市場ニーズにマッチすれば、普及に向けて大きな弾みがつくでしょう。私は10年後には、メタバースが本格的なビジネスとして立ち上がり、XRが人々の生活の一部だと認識できる社会になると考えています」
これまでもPC、ガラケー、スマホなど、新たな機器が誕生し、人々の間に普及し、私たちの暮らしを変えてきました。
次はXRデバイスが新時代を切り拓くのでしょうか？ 2024年下半期は、そんな未来に向けた壮大な実験のスタートといえるのかもしれません。
