
Reutersの報道によると、Amazonは配送担当者向けのスマートグラスを開発中といいます。
世界中のAmazon配送担当者が日常的にスマートグラスを装着することにより、これまで主に「限られた場所」で使われてきたXRデバイスが、広範囲で使われる1つの事例になるかもしれません。
一方、公共の場所でARグラスを使うことには危険やマナーの問題が伴うという議論もつきません。はたしてどのような解決手段があるでしょうか?
Amazonがスマートグラスを開発中?
「Ray-Ban Meta」が世界中で爆売れしているなど、2025年も引き続きスマートグラスが大きな話題になりそうです。そんな中、世界的EC企業Amazonがスマートグラスを開発中という報道がありました。
興味深いのは、そのスマートグラスが一般ユーザー向けではなく、Amazonの従業員、特に配送業務に従事している人々に向けて開発されているということです。
日本で未発売のためあまり知名度は高くありませんが、実は既に、Amazonはスマートグラス「Echo Frames」を発売しています。
Amazonの自社デバイスシリーズ(スマートスピーカー「Echo」、ストリーミングデバイス「Fire TV」、タブレット「Fire」など)のラインナップの一つとして販売されている製品で、機能はオーディオ機能(スピーカーおよびマイク)のみという、比較的ライトな製品です。
そして今回、Amazonが配達員に向けて開発しているのが、そのEcho Framesに簡易なディスプレイとカメラ機能を搭載したものだとか。
察しの良い方はもうお分かりかと思いますが、このAmazonのスマートグラスは配達従業員にとって有用な機能を搭載し、配送業務における最終拠点からエンドユーザーへの配達、いわゆる「ラストワンマイル」をサポートし、業務効率化を図るものです。
まず、ディスプレイには配達先へのナビゲーション情報が表示されます。道路の経路情報のほか、建物内でエレベーターを降りた後で左右どちらに向かえばいいのかを指示することによって、スムーズな配達を可能にするのです。
また、置き配の場合には配達物を置いた状態でカメラ撮影し、その映像を顧客に送信するのですが、内蔵カメラによってその状況を素早く撮影、送信できます。内蔵オーディオ機能で配送センターや顧客からの通話にハンズフリーで応答することも可能になるようです。
このスマートグラスで短縮される業務時間は、荷物1つあたりごくわずかであると推測されますが、それでも世界中で毎日数百万から数千万個もの荷物を配達しているAmazonですから、全体的に見ればものすごい効果がありそうです。
なおこのスマートグラスについての情報はReuterの報道によるもので、Amazonが正式に発表したプロジェクトではないのですが、実現したらスマートグラスの日常的な使い方として注目を集めるのは間違いなさそうです。
日本では、大手配送会社やパートナー業者に配送が委託されていることもあるので、どういう展開になるかも気になるところです。
日常使いにはリスクも潜んでいる

ただ、スマートグラスやARグラスを日常生活や仕事に取り入れる際には、そのリスクやデメリットについても知っておく必要があるでしょう。
例えば、グラスにナビが表示されることで、視界の妨げになることもあり得ます。また、グラスに表示された情報を読み取ることに意識がいくあまり、歩行者とぶつかりそうになるなど、事故を起こしてしまう可能性が考えられます。
カメラ機能による盗撮やオーディオ機能による盗聴、それに伴う個人情報流出といったプライバシーにまつわる問題も懸念されています。
例えば、今から10年前に発表されたグラス型デバイス「Google Glass」は、プライバシーの問題などがクリアになっていないことが議論となり、普及には至らなかった経緯があります。
だからといって、スマートグラスやARグラスが特別に危険なものかというと、そうではありません。
こういった問題は、歩きスマホや盗撮など、現在広く普及しているスマホでも実際に発生し、たびたび議論されていることでもあります。
スマートグラス/ARグラスであれ、スマホであれ、日常使いするにあたって、少なからずリスクが存在するということです。
つまり、「スマートグラス/ARグラスは危険」などと決めつけるのは早合点ということになります。
大切なのは社会のルールづくりや、一人ひとりがマナーを守ること。楽しく、気分よく使うためにはどうすればよいか、みんなで考えていくことではないでしょうか。
リスクを避けるための研究も進む
社会実装に向けて、スマートグラスやARグラスに対する人々の不安を軽減、払拭する研究や取り組みも実施されています。
例えば、Metaの「Project Aria」は、AR技術のさらなる研究・開発のために実行されている実験的なプロジェクトで、ユーザーが日常的にARグラスを使う場合のさまざまなデータ収集を目的にしています。
その中でも、関係者がARグラスで入手したデータについてのプライバシー問題を最重要検討課題に挙げていました。プロジェクトで収集するデータについて、周囲のユーザーの同意とデータ利用の透明性を明確にすることで、今後のARグラス製品開発へフィードバックする狙いがあります。
ほかにも、東京科学大学(旧・東京工業大学)工学院電気電子系の研究グループは楽天モバイルと共同で、ARグラス装着ユーザーへ歩行時の危険回避を促すシステムを構築する実験を行なっています。
これは、大学のデジタルツインを作成し、5G通信と学内のMEC(Multi-access Edge Computing)サーバー(ネットワークエッジでリアルタイムなデータ処理ができる低遅延のサーバーシステム)と連携することで、リアルタイムにユーザーに危険回避を促すという仕組みの実証実験です。
これにより、歩行時にARグラスの情報に没頭していたとしても、危険な事象がリアルタイムで通知されて回避できます。

今後はこういった取り組みがより具現化していくことで、スマートグラス/ARグラスが抱える問題・課題が解消され、スマホと並ぶ日常使いできるデバイスとして、認知が進んでいくことでしょう。