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興奮度200%。エンタメ業界のXR活用で何が起きる?キーワードは“臨場感”と“参加感”

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映画、音楽、ゲーム・・・こうしたエンタメ業界でいま注目されているワードのひとつに“XR”があります。

XRと聞いても、いまいち自分にとって身近な存在に感じにくい人も多いはず。XRとはリアルとバーチャルをつなぐVR(Virtual Reality 仮想現実)、AR(Augmented Reality 拡張現実)、MR(Mixed Reality 複合現実)などの先端技術の総称です。

たとえば、ゲームでも使われるVRゴーグルもXR領域のエンターテインメントの一つです。

その没入感にハマる人も少なくありませんが、現在は高価格帯のイメージが強く、個人で購入するのは躊躇するかもしれません。

事実、すでに導入と普及が進んでいるアメリカでも、デバイスの値段は高いものだと数十万円、安くても数万円で様々な機種が販売されています。

しかし、アミューズメント施設やイベントなど、1日体験や休日に遊んでみるときっと格安で楽しめるはずです。

実は、このXRとエンタメをかけ合わせた取り組みは、個人だけでなく、企業や自治体でも活発であることをご存知でしょうか。

今回は、私たちを極上の体験に誘うエンタメ業界におけるXRの活用事例とその可能性について解説します。

今後の予測と妄想も含めてご紹介しましょう。

XRの活用によってエンタメは何が変わるか?

まず、エンタメ領域においてXRを活用することでどのようなメリットが生まれるか簡単に解説します。

①場所の制約から解放される

XRでイベントを開催した場合を考えてみましょう。

まず、会場の物理的制限はなくなります。現実に存在するライブ会場を使った場合でも、それをメタバース内で行えば、実際の収容可能人数より多くの人がライブ会場に足を運ぶことができます。

これがバーチャルイベントの最大の特徴と言えるでしょう。

ただ、これだけならば、一般的なオンラインイベントと変わりません。XRイベントの最大の魅力は、その迫力と表現の多彩さにあります。メタバース空間やVRゴーグルを使ったイベントを行った場合、リアルイベントでは実現できない風景や体験を提供することができます。

後述しますが、会場の季節を夏にすることも、冬にすることも、南国にすることも容易にできるのです(風景という意味で)。

さらに、バーチャルのイベントならば、参加者は会場内を自由に移動し、インタラクティブに他の参加者とコミュニケーションが取れます。こうした点を踏まえると、一般のオンラインイベントに、より“臨場感”と“参加感”という体験価値が加わったものがXRイベントの特徴と言えるでしょう。

②費用を抑えられる

次に挙げられるのが費用の安さです。

音楽ライブなどのイベントは設備費用や人件費など、多くのコストがかかります。しかし、これがXRのイベントならば大幅にコストをカットできます。主催者側のコストカットが叶うということは、参加者もリーズナブルにコンテンツを楽しめる可能性が上がるということ。

たとえば、メタバース空間内で行われる音楽ライブでは、そこまで大規模なイベントでなければ無料で参加できることも少なくありません。

また、それはARを活用したイベントの場合でも同様です。

現実空間の建物の壁の色を変えたり、移動させるのは現実的ではありません。これがARを使えば、没入感が担保されたうえで、リアル空間に上書きされるように建物の色を変えたり、モノを出現させることができます。

ほかにも、企業にとっては、リアル空間に加えてファンを集め、バーチャルな製品やサービスを販売することにより、新しい収益源となる、といったメリットが挙げられるでしょう。

既存のコンテンツから新しい“体験”が生まれる

ここからは、実際にエンタメ領域でXRが活用されているイベントやキャンペーンの事例を紹介します。

実際の例を知ることで、どのような活用可能性があるのかがおわかりいただけるはずです。

XR観覧車

(出典:あらかわ遊園の歴史ある観覧車が最新XRエンタメ化!|株式会社ハシラス

株式会社ハシラスが2024年3月に取り組むのは、東京都荒川区にある「あらかわ遊園」のXRアトラクション「XR観覧車」です。

「XR観覧車」とは、最新のXR技術を用いた観覧車を体験できるというもの。乗客は、観覧車のゴンドラに搭乗する際に、MRヘッドセット「Meta Quest 3」を装着します。

すると、Meta Quest 3の内部には、現実の風景とCG映像を合成した風景が現れ、観覧車が上昇するにつれ、現実の風景の上にさまざまな情報が追加されるのです。

これまで、何度乗っても同じ景色だった観覧車の体験がまったく異なるものとして乗客に提供されます。

観覧車に新たな価値が加わった事例と言えるでしょう。

Bunkamuraメタバース

(出典:バーチャル空間上の文化・芸術の発信拠点として「Bunkamuraメタバース」をオープン|株式会社東急文化村

続いては東京都渋谷区にあるBunkamura(現在は建て替えにより休館中)の取り組みを紹介します。

2024年2月、東急文化村とNTT ArtTechnology、大日本印刷の三社が取り組んだのは、「Bunkamuraメタバース」というメタバース空間内での文化・芸術の“新しい鑑賞体験”を体感できる発信拠点です。

メタバース空間で美術鑑賞や企画展を開催し、またファン同士のコミュニケーションも図ることができるのが特徴です。

主催者の発表によれば、メタバースという利点を活かし、エントランス、ギャラリー、コミュニティースペース、シアターといった"空間アセット"を組み合わせることで、自由度の高い展示空間、コミュニケーション空間が構築できている、とのこと。

すべてパソコンやスマホのブラウザでアクセスでき、メタバース内でのライブ配信やアバターによるガイドツアーなどにより、リアルイベントと連動させ、各種リアル展示の関連情報にもアクセスできるのが特徴です。

決してバーチャル空間に閉じるのではなく、リアル空間と連動してイベントを行うという点は、XRの強みを活かしていると言えるのではないでしょうか。

ポケモンGOだけじゃないゲームのXR活用事例

XRを活用したゲームとして真っ先に名前が挙がるのが「ポケモンGO」かもしれません。いまや説明不要ですが、2024年でもっとも普及しているARのひとつといえるこのゲーム。

スマホのAR機能を使って現実世界にポケモンを表示しており、駅や公園にはアイテム補給や対戦ができるスポットがあり、プレイヤーは外を歩き回ってポケモンを探して対戦を楽しんでいます。

ポケモンがリアルの木に隠れたり、ポケモンとの距離を近づけることができたりと、機能は年々アップデートされています。

もともとは単なる位置情報ゲームでしたが、いまでは自治体や企業とのタイアップも増え、広告やアイテムの売買などのビジネス的要素ももっと普及すれば、さらに幅広い利用者の獲得につながるでしょう。

『ポケモン GO』の今年登場の新機能「ルート」を使ったイベント「『ポケモン GO』 浅草ルート八景」のポスター

(出典:『ポケモン GO』が浅草エリアジャック!浅草六区ブロードウェイが浮世絵風ポケモンで一色に染まる「『ポケモン GO』 浅草ルート八景」 11月25日(土)より開催!|株式会社ポケモン

「ポケモンGO」のようなARを活用したもの以外だと、最近ではVR歩行用デバイス「KAT VR」が話題を集めています。

(出典:KATVRJAPAN(株式会社EG)、東京ゲームショウ2023出展記念、限定W(ダブル)セールを発表! VRデバイスのベストセラーが、今だけ特別価格!|株式会社EG

現在、ゲームセンターなどに導入されているこちらのデバイス。その特徴は、VR空間を自分の足で歩いているかのような体験ができること。

専用の床をすり足のようなかたちで歩けば、実際に自分が向かいたい方向へと移動が可能で、手のコントローラーで移動する以上に「歩いている」という実感ができます。

自分の身体性を伴うので、より“参加感”と興奮度は高まるはずです。

アバターから本人へ。XR音楽ライブの可能性

音楽もXRを使ってその可能性が大きく広がる領域です。

その代表的なものとして、この分野で比較的開催実績があるのが“メタバース”を用いたライブ。

たとえばメタバース内のライブならば、現実のライブでは難しい、曲ごとにステージをロケーションごと変化させたり、衣装を何度でも着替えるような演出ができます。もちろん、実際のライブとは違い、世界中のファンが一同に参加することができるのがメリットであることは先述した通り。

では、その具体的な事例をいくつか紹介しましょう。

2020年8月、米津玄師さんが行ったライブ「米津玄師 2020 Event / STRAY SHEEP in FORTNITE」は、米津さん本人も、ファンもアバターで参加する日本人初のバーチャルライブでした。

(出典:全世界3億5000万人のプレイヤー数を突破したフォートナイトでのスペシャルイベント 米津玄師がフォートナイトに登場!2020年8月7日(金) 8:00 PM 初のバーチャルイベント実施|Epic Games Japan

こうしたバーチャルライブは徐々に開催アーティストが増えており、現在では米津さんのライブとは違い、アバターではなく、アーティスト本人がメタバース空間内でパフォーマンスをする、という形をとったライブも出現しています。

たとえば、2022年3月からスタートしたソニー・ミュージックレーベルズが制作したXRショートライブプロジェクト『ReVers3:x』(リバースクロス)がそれです。

これは、独自に制作された仮想空間を舞台に、様々なアーティストのライブを楽しむことができるというもの。

その第一弾は、ラッパーのKEIJUさんのライブパフォーマンスでした。

このライブの制作過程はかなり手が込んでいます。

100台以上のカメラで被写体を360度から撮影し、細かな動きまでリアルに3DCG化できるスタジオ「Volumetric Capture Studio Tokyo」で、ボリュメトリックキャプチャ技術(被写体を取り囲む数十台ものカメラで撮影し、リアルな3D映像として再現する技術)とカメラを使って4K撮影し、全世界に配信するというもの。

これにより、KEIJUさん本人が3D空間に現れ、実際にリアル空間で行うライブに似た臨場感に加え、XRを生かした演出により、さらに刺激的なライブを実現したのです。

自治体でもXRを活用する動きが

ここまで、企業の取組みを中心に紹介してきましたが、実はXRを活用する動きは自治体にも現れています。

新潟市のまちおこしの事例を紹介しましょう。

新潟市のXR活用事例

現在、新潟市は「マンガ・アニメの街」という発信に取り組んでいます。

新潟市は人気漫画家「ドカベン」の作者である水島新司さんの出身地であり、市内にはアニメ・漫画の専門学校が多く立地しています。

そこで、同市ではXR技術を活用した町おこしとして、市街地でXRの技術を使い、タブレット端末を通して見ることでキャラクターが出現するサービスを公開したのです。

新潟市の中心部、古町地区に掲示されているQRコードを読み込むだけで、巨大なキャラクターの街中ライブを楽しめるほか、景色とともにキャラクターとの記念撮影ができます。

また、新潟市では、株式会社Gugenkaと株式会社ブルボンで、新潟駅から市街地である古町までの名所をバーチャル空間で表現した「KURASUTO」も2024年2月に公開しています。信濃川を渡る萬代橋(ばんだいばし)や、歴史的建造物が立ち並ぶ鍋茶屋通りなどがバーチャル空間で再現され、メタバース内で自由に歩くことができるのです。

街の風景を活かしたこの取り組みは、新潟の魅力と景色を知ってもらうきっかけとしてXRをうまく活用している事例であることがわかるでしょう。

新潟市ではXRを使った発信として、ほかにも新潟駅、万代、古町をつなぐ約2kmを都心軸「にいがた2km」と名付け、この周辺でARコンテンツを楽しめる「にいがた2kmバーチャルウォーク」も開催しています。

(出典:【新潟コンピュータ専門学校】NIIGATA XRプロジェクト第3弾 「にいがた2kmバーチャルウォーク」開催|NSGグループ

「視聴者」から「参加者」に変化する映画鑑賞

最後は、映画業界におけるXRの活用可能性を見てみましょう。

従来の映画は、どれだけ画面が大きくても、スクリーン内に映像が映し出されるのみでした。

しかし、たとえば観客がVRゴーグルを装着して鑑賞するVR映画は、視界360度すべてがスクリーンとなります。

その結果、何が起きるでしょうか。

2020年ヴェネチア国際映画祭でVR作品賞を受賞した『The Hangman at Home: An Immersive Single User Experience』という作品を例に出してみます。

この映画は、観客自らが映像内のマッチを手に取り、擦ることで始まります。

つまり、この映画における観客は単なる映画の「視聴者」ではなく「参加者」となるのです。

このように、VR映画が普及すると、「映画鑑賞」という行為そのものが変化することがわかるのではないでしょうか。

VR映画では、観客が自然と映画の「参加者」になれるようなコンテンツ作りが必要なのと共に、作り手側の世界観や意図がしっかり伝わるためには、観客側にもある程度の慣れが必要なのかもしれません。

このように、これからは観客側も、XR化が進むエンタメ業界への一定の慣れとリテラシーが必要になってくるでしょう。

2020年2月、日本初のXRに特化した国際映画祭「Beyond the Frame Festival」が発足していますが、国内におけるXR映画の普及はまだまだこれから。今後の発展が楽しみな分野のひとつと言えるでしょう。

まとめ

エンタメ領域におけるXRの活用は、その作品やイベントの可能性を大きく広げる一方、それを最大限楽しむためには、私たちも一定のリテラシーを育むことが必要になってくるかもしれません。

今後さらにXRが普及することで、コンテンツ作成における費用も抑えられるようになります。私たち利用者側も、よりリーズナブルに、そしてより身近な体験としてXRに触れることができるようになるでしょう。

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この記事を書いた人
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